第5回 大阪大学バンコク公開講演会
(感染症から私たちの身を守る)
【講演要旨】

※本講演会は、大阪大学主催、在タイ日本国大使館他の後援で10月2日に行われた講演会です。本件につきましては、在留邦人の皆様の健康管理に役立つと思われる医療情報が多くありましたので、皆様の参考のため大阪大学の許可を得て、当館ホームページに掲載することと致しました。

1. 細菌による下痢について

(講師:竹田美文 岡山大学インド感染症共同研究センター長)

感染症とは、細菌等が体内に侵入し、増殖するということが大きな条件である。病原体がどこから侵入してくるかということを大きく分けると3つになる。①口から入る、②呼吸器道(鼻)から入る、③接触感染、すなわち性器粘膜を介して入る場合、蚊などの昆虫を介して入る場合、注射器などを介して入る場合がある。私はほぼ50年下痢の研究をしているが、本日は沢山ある下痢の原因細菌のなかで、コレラ菌と腸炎ビブリオについて、菌の特徴とその感染症について話をする。

(1) コレラ

コレラは熱帯・亜熱帯の開発途上国では、身近な感染症である。バンコクで住んでおられる皆さんは、はたして身近な感染症と思っておられるかどうか。私が現在勤務しているコルカタではコレラが常在的に存在しているので、在留邦人の多くの方がコレラに気をつけておられるが、バンコクの環境からすると大きな注目を集めていないのではないかと思っている。これには理由がある。すなわち、タイ政府は数年前までコレラの存在を認めていなかった。タイ保健省がコレラの存在を公式に認めるようになったのは数年前からである。当然コレラはタイでも前から存在していたが、これは水溶性下痢として発表されており、我々はタイ政府から水溶性下痢と発表されれば、コレラのことであると認識していた。

(イ)コレラの流行期

コレラの世界大流行という記録がある。1817年から23年までを第1次として、第6次までの流行は、一定の年数が経つと終焉した。しかし、1961年にインドネシアで発生した第7次世界大流行は現在でも終了していない。この理由は、以前とは異なり、人の動きや交通機関の発展によるものであり、おそらくは以前のように流行が数十年で終わるということはないと思っている。

コレラという感染症が我々の周りでどの程度大きい割合を占めているということであるが、例えば、WHOが発表した5歳未満の小児の死亡推計では新生児死亡(生後4週までの死亡、多くの原因がある)が最も多いが、それを除くと下痢が17%、肺炎が19%である。下痢のなかでコレラが占める割合は非常に高い。呼吸器疾患と下痢は世界の開発途上国の小児だけではなく、すべての年齢層にとって大きな死亡原因となっている。おそらくタイでも統計をとればコレラの患者は相当数に上るのではないかと思う。

(ロ)発生国と患者数

WHOが発表した世界のコレラ患者数は、毎年20万から30万である。しかし、この統計は氷山の一角である。例えば、コルカタにある西ベンガル州立感染症病院には、急性下痢症患者が年間2万人から3万人入院している。2年間にわたり約2500人の患者から下痢便を採取し、24種類の原因微生物を検査したところ、下痢患者のほぼ半分が細菌によるもので、残りの30%がウイルス、20%が寄生虫・原虫であった。細菌を細かく分離するとコレラ菌が約半分であった。すなわち西ベンガル州立感染症病院に入院した年間約2万人の急性下痢症患者の50%(細菌による下痢)の中の50%(細菌による下痢の中のコレラ患者)、すなわち年間約5000人がコレラ患者となる。しかし、インド政府がWHOに報告しているインド全体のコレラ患者数は2007年で2635人となっておる。コルカタの病院だけで5000名の患者が存在するにもかかわらず、WHOの統計はインド全国で2635人である。各国政府はコレラ患者をできるだけ少なく報告する傾向があり、タイも同じことであると考えている。2007年にタイで1428名のコレラ患者が存在したとタイ政府は発表したが、実数はわからない。これらのことから私はコレラが熱帯、亜熱帯での身近な感染症であると結論づけている。

(ハ)日本におけるコレラ

日本でも明治時代はコレラ患者の6~8割は死亡している。こうしたことを受け、日本政府は明治30年に伝染病予防法を発布し、平成13年(2001年)に新しい感染症法が制定されるまで施行されていた。コレラというのは明治、大正、昭和の初期までは死亡率の高い、恐ろしい病気であった。安政5年(1858年)のコレラ流行の記録があるが、この年江戸では、1カ月余りで30万人が亡くなっておる。当時の江戸の人口は100万人程度と考えられるので、約1カ月で3割の人が亡くなったことになる。これが当時のコレラの怖さである。しかし、こうした時代から150年以上たった現在、わが国のコレラ患者数は、年間40~80人程度で、すべて輸入感染症である。これらの状況からわが国では、行政も研究者も、コレラに関する関心が薄くなっているが、バンコクに住んでいる皆さんの中に、コレラが怖くないという認識を持たれている方は注意をしてほしい。

(ニ)コレラの症状

コレラの症状については「コメのとぎ汁のような下痢」がすべてといっても過言ではない。下痢による脱水症状により、皮膚が乾燥するなど、いろいろな症状が発生する。重症のコレラ患者の下痢便は「コメのとぎ汁」に似ていて、「ミルク」のような状態である。下痢便の量も非常に多い。私が経験した最重症例は、体重40kgの男性が24時間以内に70リットルの下痢をした。ただし、この患者は3日後には退院しており、これから見れば、コレラという病気は治療ができる場所にいれば、恐ろしくない病気である。しかも治療は簡単である。しかし、治療に出向けない、治療を行えない患者は現在でも死亡しているという状況である。

(ホ)コレラの治療方法

治療法は簡単である。Oral Rehydration Solution (ORS)と称する経口輸液を排せつした便の量と同量飲めばよい。経口輸液は食塩、砂糖、重曹、塩化カリウムのみが入った極めて簡単な組成の治療薬である。バンコクの薬店でも入手出来ると思うので手元に置いておかれることを奨める。あるいは、ポカリスエット(粉末)、ソリタT顆粒2号を所持していれば、代用できる。ポカリスエットの粉末の場合は、指定の水分量の半分で溶かして、便の量と同量飲めば、魔の薬のように下痢が止まる。但し、この治療法はコレラなどの「水様性の下痢」の場合のみで、血液の混じった下痢の場合にはこの治療法を行うのは危険である。直ちに医師に相談してほしい。

(ヘ)コレラワクチン

コレラワクチンが開発、販売されている。ただし日本ではまだ承認されていない。以前、経口生菌ワクチンというものがあったが、現在では色々な理由があり、製造・販売が停止されている。現在入手できるワクチンは、経口死菌ワクチン、すなわち、コレラ菌を殺菌して飲むワクチンである。ベトナム、インドでは認可・使用されているが、タイの現状については承知していない。日本政府は承認していない。非常に有効なワクチンであるので、入手して接種(経口)されることを奨める。ただ現在のところ、毎年接種することになっている。

(ト)コレラの対処方法

コレラに対する対処法としては、①生水を飲まない。②ワクチンを接種する。③罹ったときの場合に経口輸液を常備する。なお、コレラ菌は少量が経口的に体内に入っても胃酸で死滅し、胃を通過して病気を起こす小腸下部に達しない。従って、何らかの理由で胃を摘出している方については、胃酸が十分に働かないので、健常者に比べるとコレラに罹りやすいので十分注意してほしい。

(2) 腸炎ビブリオ

腸炎ビブリオは昭和25年に日本で見つかった病原菌である。大阪府南部の岸和田市、貝塚市、泉佐野市などでシラス中毒事件というのが発生した。患者数272名、死者20名という当時でも大事件であった。当時の毎日新聞をみるとこの事件が細菌による感染症という認識はなかったが、阪大微研の藤野恒三郎教授(故人)が丹念に調べた結果、腸炎ビブリオという新しい病原菌を報告した。腸炎ビブリオの患者の臨床症状は、激烈な腹痛、胃部の灼熱感、嘔吐,血便など大変な症状である。シラス中毒事件が発生した際の犠牲者を大阪大学医学部法医学教室で司法解剖を行った結果報告を見ると、腸炎ビブリオ食中毒(感染症)というのが極めて恐ろしい死に至る可能性のある感染症であるということがわかる。しかし、残念ながら日本人にはそういった認識がほとんど無い。

(イ)腸炎ビブリオの特徴・症状

腸炎ビブリオの特徴の一つは、海水細菌であるということである。表面海水の温度が摂氏15度以上に上昇すると海水中で活発に増殖する。従って、これらの状況で水揚げされた魚介類が腸炎ビブリオを付着したまま、台所に入ってくる。日本では腸炎ビブリオ食中毒は6月から10月に多発する。海水温度が15度を超える状況となっているからである。いっぽうタイでは毎月腸炎ビブリオ患者が発生している。タイでは海水温度が常に15度を超えているからである。

日本では行政が10年くらい前から腸炎ビブリオ撲滅対策を行い、その結果、患者数が激減した。かつてわが国の食中毒の原因菌として、腸炎ビブリオは最も多かったが、今では、かつての10分の1以下である。対策の中心は、水揚げされた魚介類が魚市場から各家庭の台所に届く間の流通の徹底したコールドチェイン化である。現在のタイの状況は、おそらくわが国の実態とかけ離れていると思う。タイで腸炎ビブリオ感染症が多いと思われる所以である。

腸炎ビブリオの症状は激しい腹痛と血性下痢である。加えて、時に、循環器症状が出る。その原因は、腸炎ビブリオが産生する耐熱性溶血毒が心臓に作用することによる。時に心臓を止める、すなわち死亡することがある。

(ロ)予防法

予防法としては、①菌を食品に付着させない。②食品に付着した菌を増殖させない。③食品に付着し増殖した菌を加熱などで殺す。タイでは、水揚げされる魚介類に菌が付着していると考えないといけないし、流通過程のコールドチェイン化が不十分であるとすると、加熱殺菌が唯一の方法である。従って、生魚を食べることをしなければ、防ぐことができる。台所での二次汚染にも十分な注意が必要である。

2. 日本脳炎ウイルスから身を守る

(講師:松浦善治 大阪大学微生物病研究所教授)

(1) ウイルスと細菌(バクテリア)の違い

ウイルスとバクテリアは、①まず大きさが違う。バクテリアは通常の顕微鏡で見ることができるが、ウイルスは通常の顕微鏡見ることができず、電子顕微鏡を使用しなければ見えないくらい小さい。②バクテリアは抗生物質を使用して治療を行うことができるが、ウイルスは抗生物質が効かない。③バクテリアは栄養素があればどこでも増殖することが可能であるが、ウイルスは生きた細胞がないと増殖することができない。すなわち生きた細胞の中でしか増殖できない。④増殖方法についてもバクテリアは二分裂、一つが2つに分離し、2つが4つに分離するという増殖方法をとるが、ウイルスは生きた細胞にとりつき、一旦姿を消すが、百倍、千倍となって出てくる。バクテリアは生物学上、生き物として判別されるが、ウイルスは生き物なのか否かの判別ができない。というのはウイルスは遺伝情報しかもっていないので判別が難しい。また、ウイルスの増殖法は生きた細胞の複製装置を使って自分のコピーをたくさん作り出すという根本的に増殖方法が異なる。

(2) 日本脳炎ウイルス

日本脳炎とは日本脳炎ウイルスに感染して起こる感染症である。日本脳炎ウイルスは蚊を媒体として感染するので、蚊に刺されなければ、感染することはない。また、感染しても全ての人間が発症するわけでもないが、重篤な急性脳炎を起こすことがあるので注意が必要である。しかし、有効なワクチンがあるので、これを用いて予防が可能である。

日本脳炎ウイルスは豚の体内で増殖する。豚は日本脳炎に感染しても重篤な症状を起こすことがないので、豚を増幅動物として蚊を媒介して人間に感染する。但し、人から人への感染はないので、豚と蚊の感染環に入らなければ、日本脳炎ウイルスに感染することはほぼない。

豚が感染した場合には、妊娠した豚が流産をする、種豚が精巣炎を起こしたりするといったような軽度な病気が多い。また、ほとんどの豚は半年程度で肉として市場に出てしまうので、ウイルスが増えるには最適な動物である。

但し、人が感染すると重篤になることが多い。全世界では年間4万3千人が発症し、そのうち、1万1千人が亡くなっている。亡くなっていない方でも約1万人の方が重篤な後遺症を発症している。また、日本脳炎ウイルスに感染した人のうち、発症するのは100人から1000人に一人といった状況であり、ウイルスに感染しても皆が発症するわけではないが、乳幼児や高齢者の発症例が多い。

症状であるが、急性期は発熱、頭痛、発疹、めまいなどがある。重度の脳炎患者は感染者の1000人から5000人に一人が発症する。重度になると症状がかなりきつくなり、昏睡が現れ、最後は死に至ることもある。死に至らなかった場合においても確実に重篤な後遺症が残るという非常に怖い感染症である。

日本脳炎の分布であるが、ほとんどが中国、インド、タイが多く、最近では豪州にも広がっていると言われている。

タイでは、1970年頃から日本脳炎の発生が増えだした。これは地方に水田が多く作られるようになってからであると考えている。タイでは日本脳炎発生のピークは過ぎていると思うが、タイには雨季があり、日本脳炎を媒介しているアカイエ蚊が多く存在しているので、注意しなくてはならない感染症の一つであることは間違いない。

(3) 日本脳炎ウイルスの対処方法

ウイルス感染症の治療法というのはほとんど無いものが多いが、日本脳炎に関しても有効な治療法はない。では何が一番有効な対処法なのかというと予防である。予防法としては、蚊に刺されない。これが一番簡単な予防法である。そしてワクチンを使用することである。日本脳炎ワクチンは以前、マウスの脳にウイルスを接種し、脳内で増殖させ、それを精製して作っていたが、これは脳の成分が入り込む可能性があり、その場合、いろいろな副作用が発生する。これを受け、平成17年に厚生労働省がストップをかけ、しばらくの間ワクチンがなかったが、最近、猿の腎臓細胞でウイルスを増殖させて、ワクチンを作ることができるようになった。乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンといって、脳から作製するものより遙かに安全なワクチンを作ることができ、現在供給されている。

マウスから作るワクチンが使用されなくなった理由はADEM(急性散在性脳脊髄炎)という病気が日本脳炎ワクチン接種後にまれに発生していたからである。ADEMは脳神経系の病気で、発熱、頭痛、痙攣、運動障害などの症状を発症する。これを受け、マウスから作製するワクチンを止め、もっと安全なワクチンを作るということになった。ADEMは麻疹、水疱瘡、インフルエンザ等の病原体に感染すると希に発症する。従って、ワクチンを打ってADEMになったのか、こういった病原体に感染してADEMになったのかということは、はっきりとは分かっていない。しかし、負の可能性を取り除くため、より安全性の高いワクチンを作るということになった。

日本脳炎のワクチンは3歳児に2回接種し、4歳児に1回接種する。その後、9歳児にもう一度接種するというのが、日本脳炎ワクチンの一般的な接種法である。なお、ワクチンについては国立感染症研究所のホームページに詳しく記載されているので、こちらをご覧頂きたい。

今回の講演で自分が一番述べたかったのは、細菌とウイルスは違うということと、日本脳炎は日本脳炎ウイルスに感染した蚊によって感染するということであり、これは蚊と豚の間で感染環が作られていて、この中に入らなければ感染しないということである。そして、なるべく蚊に刺されないように気をつけ、ワクチンを接種するということが一番である。なお、常に新しい情報を国立感染症研究所のホームページ等から入手し、気をつけて頂くということが寛容であると考えている。

3. タイで注意が必要な寄生虫症について

(講師:堀井俊宏 大阪大学微生物病研究所教授)

(1) 本日はタイで気をつけるべき寄生虫について話をさせて頂く。まず、寄生虫はどういった分類群にいるのかというと、ウイルスは遺伝情報だけを持ったもの、細菌は原核生物といったものに分類される。生物には原核生物と真核生物に分かれ、人間等動物は全て真核生物に分類されている。では、寄生虫はどうかというと、全て真核生物に分類されている。真核生物に分類される原生生物界にマラリア原虫や動物界には蛔虫などが存在している。

例えば、下痢をおこした患者がウイルスによるものなのか、コレラによるものなのか、アメーバ赤痢によるものなのか、ウイルスか細菌か寄生虫かという問題は患者にとってはどうでもよい問題ではあるが、学術界の分類は上記の通りとなっている。

先程、話をした蛔虫の感染経路は野菜、砂などの地などから口に入り、感染するという感染経路を取っており、50年以上も前に学校などで手洗い奨励などの草の根の指導が功を奏し、日本では回虫症の患者はほとんど無くなった。現在では希に山間部で自農をされている方に見受けられることがあるが、ほとんど無い状況である。

日本で問題になる寄生虫症は、自然の感染ルートから外れた、文化的なものである。例を挙げると輸入感染症、これは東南アジア、アフリカなどに旅行した人が感染し、国内に持ち込むというものである。また、日本で大きく問題となっているのは、生鮮食品由来寄生虫症、この中にアニサキスというものがあり、鯖ずしなどの魚類に寄生するものであり、日本の国民病と呼ばれている。この他、性感染寄生虫症、ペット由来寄生虫症などがある。 タイでの寄生虫症としては、昆虫媒介寄生虫症(マラリア等)、水経感染寄生虫症(赤痢アメーバ等)、生鮮食品寄生虫症(繊毛虫等)がある。

ここでは、いくつかの寄生虫についてお話をしたいと思う。

(イ)アニサキス

元々はイルカや鯨の胃の中に寄生する寄生虫の幼虫である。これが鯖などに入っていく。アニサキスに感染すると胃に非常な激痛が走るが、その後病院に行き、治療を行えば、何事もなかったように回復する。この寄生虫で死に至ることはない。

感染経路はアニサキスに寄生された鯨などが糞便をし、これを食べたオキアミなどが感染する。また、そのオキアミを食べたサンマ、スルメイカ、真アジなどに感染する。これらはすしネタになるものが多く、鯖寿司のように酢でしめればよいかというと、そもそもアニサキスは胃酸の中で生きているので、酸には強い性質を持っている。しかしながら、アニサキスは冷凍をすると死滅するので、知っておいて頂きたい。

(ロ)ランブル鞭毛虫

インド、バングラディシュに非常に多く生息している。この寄生虫も生水を飲むことで感染する。

(ハ)クリプトスポリジム

こちらも単細胞の寄生虫で、水を飲むことで感染する。但し、この寄生虫は日本や米国で何年に一度か大量発生する寄生虫である。理由はビルの貯水機などに大量発生し、そこから感染するというものである。但し、タイでは常時この寄生虫が存在しているので、水経感染については、生水を少量でも飲むと感染する可能性がある。

(ニ)赤痢アメーバ

赤痢というのは血液が混じった下痢ということである。通常、このような下痢をすれば皆様であれば医者に駆け込むと思うが、病院で治療することにより完治することが可能である。但し、バンコクでは屋台の衛生観念というのは低いので、この赤痢アメーバに感染する可能性は高いので、ご注意願いたい。

(ホ)繊毛虫

 熊、豚、ネズミなどの筋肉内に存在する。この寄生虫は生肉を食べることにより感染する。日本では月輪熊の生肉を食べた人からこの寄生虫の感染者がでている。

(ヘ)タイ肝吸虫

タイでは一番多い寄生虫症である。大きさは1.2cmであるが、これが胆管の中に寄生する。鯉科の魚の筋肉内に寄生する淡水魚の生食が感染の原因である。肝臓の胆管で成虫となり、肝硬変を発症する可能性もある。タイでも淡水魚を刺身で食べる風習があるところもあり、タイでは推定700万人が感染していると言われている。淡水魚を生で食べるという行為は学者から言わせると言語道断な行為である。海の魚についてはアニサキスがかろうじて入ってくるだけで、海のものは刺身で食べても差し支えないが、淡水魚やサワガニなど淡水生物については生食はしないよう心がけてほしい。

(2) 日本では、感染症の患者が激減しており、関心が低くなっている。以前は蛔虫などの寄生虫が多く発生していたが、ここ数年では統計もとらないほど減少している。

この理由は、以前人糞などを肥料に野菜の栽培に使うことで、人と野菜との関係が蛔虫が人と野菜との間を移動するという生活環が成立していたが、近年インフラが発達し、上下水道が分離され、肥料に人糞を使う必要がなくなり、寄生虫が減少してきたという事実がある。

タイを見ると感染症を除く病気については上昇しているが、感染症は減少している。これをみると経済力が伸びると感染症は減少する傾向にある。タイの衛生状態は日本に遅れること30、40年であるが、衛生状況は改善されつつある。その例を自分の専門であるマラリアを例に取りタイのマラリアということで説明したい。

マラリア原虫という生き物はどういうものかというと、人の赤血球の中で寄生する。そしてハマダラ蚊を媒体として感染する。WHOの発表している流行地域を見てみるとタイは現状では流行地域に指定されていない。特にバンコクでマラリア患者は発生していない。タイの周りのベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーでは依然としてマラリアは存在していて、多くの患者が発生している。

今日本の最も近い国でマラリア患者が多く発生している国は北朝鮮である。北朝鮮では毎年20万人~30万人の患者が発生している。実は世界の貧困地域とマラリア流行地域はかなりの部分でオーバーラップしている。地球温暖化で日本でもマラリア流行か?という記事が最近見受けられるが、そのようなことは絶対にあり得ない。その理由の一つは日本には温暖化以前からマラリアの媒体蚊は多く存在している。しかも、実は日本もかつてはマラリア流行国で会ったという事実がある。19世紀末には20万人あったマラリア患者がおり、戦後直後は輸入マラリア患者が多く発生していたという事実がある。日本だけではなく、イタリアは流行国であり、パリも流行地域であった。但し、これらの国は先進国となり、経済力が上昇して、マラリアを撲滅したという事実がある。

タイのマラリアの状況をラチャブリという地域で7カ所において長期にわたり調査を行ったところ、全ての地域で熱帯熱マラリア及び三日熱マラリア共に減少している。更にマラリアの問題点は薬剤耐性マラリアが増加しており、今までの特効薬では効果がないという状況が発生している。これに伴い、マラリア特効薬に対する有効調査を行った際、カンボジア、ベトナム、ラオス等では調査結果が出されているが、タイの結果が出されていない。この理由はタイで調査を行っていないのではなく、タイにマラリア患者が発生していないことによるものである。

GDPの増加とマラリア患者の発生数を比較すると見事に反比例するという事実が分かった。マラリアのような昆虫媒介性の病気は経済力が上がると自ずと減少するという結果が出ている。バンコクでマラリアの心配をする必要はない。但し、ミャンマーのボーダーに近づくとマラリア患者が発生しているという状況になっている。

最後にバンコクで寄生虫として何に注意すべきかというと、蛔虫、鉤虫といったようなものはほとんど無いという情報がある。恐らく、日本に滞在しているときと同じような注意でよいと思う。注意を喚起することは簡単であるが、安全を宣言することは非常に難しい。では、どういう表現方法で伝えればよいかと考えてみた。もし、自分に対して「バンコクで刺身を食べるのか」という質問がなされた場合、自分は「喜んで食べます」というのが自分の回答である。

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