日タイ関係

令和元年8月7日

佐渡島大使の政策目標(5つの柱、7つの目標)

2018年5月

   

タイは1人当たりGDPが6,700ドル程度となっている一方で、失業率が1%程度であることに加え、近い将来、少子化による労働力人口の減少が見込まれる。このまま低付加価値の労働集約産業に頼った成長を続けた場合、いわゆる「中所得国の罠」に陥るおそれがある。タイが2036年までに高所得国になるという目標を実現するためには、産業の高付加価値化が不可欠となる。一方、高齢化社会への対応と環境に配慮した持続可能な社会作りは安心・安全なタイ社会を実現していく上での重要な社会的課題となっている。在タイ日本国大使館は、相互補完的な日タイ両国のWin-Winな関係を今後より一層深めるため、タイの経済・社会課題克服は在タイ日系企業ひいては日本の発展にとっての課題でもあるという認識の下、大使館の政策目標(5つの柱、7つの目標)を掲げる。タイとともに真剣に取り組んでいきたい。

 

柱1. 分野横断的な政策目標

(目標1)人材育成・研究開発への協力

高付加価値産業の育成に当たっては、人材育成、研究開発への投資が不可欠である。最近では、日系企業が新たな研究開発拠点をタイへ設置する事例も出てきており、日タイの産学官が連携し、タイの産業人材育成及び研究開発に様々な貢献ができる。

「日タイ人材育成協力イニシアティブ」に基づいた人材育成の推進(円借款プロジェクトの実施、高専モデルの導入、技能検定・職業資格評価制度における協力)やFleX Campusの導入等の取組を通じて、エンジニア人材の質的・量的拡大に資する職業訓練や技能開発を支援したい。また近年、日本の多くの大学や研究機関がタイに拠点を設置しており、研究・教育における日タイ間の協力の事例も増えている。科学技術外交ネットワークを通じてこうした動きを支援していきたい。さらに、日本語学習者・日本語能力検定試験受験者・日本留学生の増大を図り、新たな親日層育成や日系企業への就業につなげていきたい。

 

(目標2)コネクテッド・インタストリーズによる変革 ~ASEANの1st PartnerからLeaderへ~

IoT、ビックデータ、人工知能等を活用して既存産業とデジタル技術の「つながり」を構築することで新たな付加価値創出や社会的課題の解決を目指すコネクテッド・インタストリーズという概念は、タイの産業高度化のために必要不可欠となる。コネクティッド・インダストリーズに基づいて様々な変革が行われるように支援していきたい。具体的には、コネクテッド・インダストリーズ・ラウンドテーブル(構成員:関係閣僚や大使等)を司令塔とする先進的な政策パッケージの創出、「三段ロケットアプローチ」(機械・設備の見える化→人の見える化→LEANオートメーション)の推進、ASEAN随一の日系スタートアップエコシステムの確立に向けた「オープン・イノベーション・コロンブス」の立上げ等の施策によって、タイにおけるコネクテッド・インタストリーズによる変革に貢献していきたい。

 

柱2. 社会的質の向上と環境に優しい成長

(目標3)高齢化、安心・安全への協力

タイは2005年に 「高齢化社会」を迎えて以降、急速に進みつつある高齢化への対策を必要としている。また、タイでは、健康の維持、労働環境の改善、交通安全の確保に加え、高齢化に伴う介護の充実や高齢者や障害者の雇用等も人々の安全・安心に関わる課題となっている。

これらの課題に対して、タイよりも先に高齢化社会に対応してきた日本の経験を踏まえ、 専門家の派遣やセミナーを通じた知見とノウハウの共有や、生命や尊厳に対する脅威から保護し能力を強化するとの考え方に基づく草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じた支援を進めていきたい。

 

(目標4)エネルギー・環境を軸とした持続可能な開発への協力

タイではエネルギー需要が増大する一方で、国内の天然ガス生産がピークアウトする等の変化が今後予想される。持続可能な開発の観点から、エネルギー源の多様化と省エネルギー推進を通じた供給の確保、エネルギー消費の増加に伴うCO2対策が課題となっている。また、廃棄物の増加や不適正処理等による環境汚染や健康被害の問題にも直面している。

こうした課題に対する取組として、既存の日タイ政府間 「エネルギー政策対話」 と連携して、需要側企業も交えた官民「対話の場」を創設したい。また、CO2対策について、二国間クレジット制度(JCM)や緑の気候基金(GCF)等の資金メカニズムを活用した具体的プロジェクト形成を推進したい。さらに、エネルギーを効率的に利用し、生活環境を保全する社会を目指し、環境に配慮した鉄道駅前開発や、スマートシティにかかる支援を実施するとともに、日本が有する知見の共有や廃棄物処理に関するガイドラインの作成を通じて、廃棄物分野の協力を強化していきたい。

 

柱3. (目標5)質の高いインフラと連結性の向上への協力

ASEAN統合の果実を地域全体に広げるためには、道路、鉄道、情報通信ネットワーク等の基盤インフラの整備により域内をつなぎ、モノ・ヒト・情報の流通を活発化させ、経済回廊の周辺地域の開発を推進していくことが重要である。タイは、その地政学的優位性を活かして、ASEAN、特にメコン地域で中心的地位を担うことが求められており、タイ国内の経済発展を支えるインフラ整備に加え、周辺地域との連結性向上のための質の高いインフラ整備が必要とされている。また日本政府が推進する「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」においても、東西経済回廊、南部経済回廊等による周辺国との連結性が重視されている。

現在タイ国内では、様々なインフラプロジェクトが積極的に推進されており、日本は、これらプロジェクトに必要とされる利用者のニーズを踏まえた信頼性・安全性・環境性の高いインフラの整備と運用を得意としている。日本の知見と技術の活用を通じて、タイにおける質の高いインフラ構築、物理的・制度的・人的連結性向上に貢献できる。具体的には、長距離鉄道・都市鉄道整備、駅周辺都市開発、高速道路整備や港湾等の物流拠点整備、ダウェー開発、地球観測衛星、地理空間情報の利活用、通信・放送・郵便、ICTを活用した新たなソリューション(農業・食品分野等)、東部経済回廊(EEC)に関するインフラ案件を最大限後押しするとともに、効果的・効率的な洪水対策等にも協力していきたい。これらプロジェクトの推進を通じ、日タイ両国はWin-Winの関係にあるパートナーとして連結性向上と経済発展の相乗効果を最大限に発揮させることができる。

 

柱4. (目標6)通商ルールの整備に向けた協力

今年3月からタイはTPP参加に向けた検討を官民で開始しており、正式にTPP参加に向けた意思を表明している。大使館としてもタイのTPP参加を歓迎するとともに、TPP参加に向けた情報提供等の取り組みを通じてタイのTPP参加を後押ししたい。またRCEPについても質の高い通商ルールを実現した内容で早期妥結できるよう後押ししたい。さらに、発効から10年目を迎えた日タイ経済連携協定についても、10年目の一般的見直しを通じて、タイ側との議論を進めていきたい。

 

柱5. (目標7)EEC等東部地域における領事業務体制の強化

EEC等東部地域では、工業団地への日系企業進出が増加しており、在留邦人数はこの10年で約3倍と急増している。チョンブリ・ラヨーン日本人会が活発に活動しており、 シラチャ日本人学校も開校している。その状況を踏まえ、周辺の地域における在留邦人の利便性を高め、日系企業の進出やビジネス環境の改善を支えていくため、チョンブリ県にシラチャ総領事館の設置を追求していきたい。

 

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以上のような取り組みについて、大使館は「チーム佐渡島」として全力で取り組んでいく所存である。タイと日本が、真のWin-Win関係を今後一層深めていけることを心から信じている。