大使レター(平成25年2月・和訳)

はじめに

「はじめまして」。既にお会いする機会を頂いた方もおられますが、改めてご挨拶をさせて頂きます。昨年11月に着任致した佐藤重和です。どうぞ宜しくお願い申し上げます。これは、私からの初めての大使レターです。大使館のありきたりの宣伝物かとここで止めないで、最後までざっと目を通して頂ければ大変嬉しく思います。

当地に着任して3か月間、日本とタイの様々な分野の方々とお会いする機会を通じて、両国が如何に強く緊密な関係にあるかを実感しているところです。日タイ関係の約600年に亘る長い歴史の中で、皇室・王室の交流や経済関係の結びつきは勿論のこと、特に印象的なのは、様々なレベルでの「双方向」の交流が盛んなことです。

最近の一例ですが、タイの国民的スーパースターであるバード(トンチャイ・マッキンタイヤー)さんが、2013年2月5日から11日まで開催の「第64回さっぽろ雪まつり」のために日本を訪れると聞きました。今回の雪祭りではバードさんの雪像が製作されるそうで、バードさんはそれを見るために日本を訪れるとのことです。バードさんと言えば、東日本大震災の後に、日本への支援ソングも歌ってくれたと伺っています。本当に嬉しいことです。そのバードさんの大ヒット曲「Too Much, So Much, Very Much」をカバーした日本の女性ポップ・グループBerryz工房が、この3月に再びタイでコンサートを開くというニュースもあります。

スポーツの世界でも、この日タイ間の交流は盛んです。個人的な話になりますが、実は、私が最初にタイの人の名前を覚えたのが、日本のボクシング全盛時代に世界フライ級チャンピオンだった、ポーン・キングピッチというタイ人ボクサーなのです。彼は、ファイティング原田という日本人ボクサーが1962年10月、最初に世界王者のタイトルをとった時の相手であり、私の人生の中で初めて知ったタイ人でした。キングピッチは、とてもハンサムだったので、タイ人って「かっこいい」んだと思ったのを覚えています。先日はバンコクでムエタイのブーアカオ選手の試合を観戦する機会にも恵まれました。彼も「かっこいい」ですね。私が当地に着任して直後に開催されたフットサルのワールドカップでは、日本チームの2試合を観戦しました。サッカーでは、Jリーグとタイのプレミアリーグの間でパートナーシップ協定も締結され、交流が進んでいます。スポーツは文化や言葉の違いを超えて交流し、感動を共有できるという、大変貴重なものです。スポーツを通じても、緊密な日タイ関係の幅がさらに広がるといいと思います。

安倍総理のタイ訪問

この日タイ間の交流において、新年早々に大きなイベントがありました。昨年暮れに日本で新政権が誕生してから間もなく、この1月に、安倍総理がタイを含む東南アジア3カ国を訪問しました。安倍総理は、総理就任後、外交の重要な目的の一つとして掲げた近隣のアジア諸国との友好・協力関係の強化を図るため、そしてまた、21世紀の「成長センター」の一翼を担い、多くの日本企業が展開し、アジア地域のゲートウェイたるタイと共に繁栄することを願い、総理就任後初の外国訪問先の一つとしてタイを選ばれました。

タイは約5万人の邦人が居住し、多くの日本企業が進出し、サプライチェーンの重要な拠点です。また、ASEAN主要国として、地政学的にも東南アジア地域の中心に位置しており、我が国にとって重要な戦略的パートナーでもあります。

今回の安倍総理の訪問は、日本のタイを含む東南アジア重視を示すものであり、任国の大使としては望外の喜びでもありました。総理がプミポン国王陛下に拝謁の機会を賜り、インラック首相を始め、タイ政府及び国民の皆様から頂いた温かい歓迎に対し、改めて心から御礼を申し上げます。

日・タイ首脳会談

1月17日に行われた日・タイ首脳会談で両首脳は、主に以下の点について一致しました。
(1) 民主主義や市場経済等の基本的価値や経済的利益を共有する国として、両国が経済、安全保障、人的交流等のあらゆる分野で「戦略的パートナーシップ」を更に発展させる。
(2) 経済連携協定の円滑な運用や日本によるタイの高速鉄道や地球観測衛星などのインフラ整備への貢献により、二国間の経済関係を一層強化し、両国が共に繁栄していくことが重要である。
(3) アジア太平洋地域の戦略環境が大きく変化する中、二国間のみならず、東アジアを含む地域の課題について協力して取り組む。
(4) 日ASEAN友好協力40周年である本年を通じて、日ASEAN関係を更に発展させる。

なお、本年12月には日本とASEANとの特別首脳会議を日本で開催する予定です。

「対ASEAN外交5原則」

また、安倍総理は今回の東南アジア諸国訪問を通じ、地域の平和と繁栄を確保していくため、自由、民主主義、基本的人権、法の支配など普遍的価値の実現と経済連携ネットワークを通じた繁栄を目指し、日本はASEANの対等なパートナーとして共に歩んでいく旨のメッセージを各国首脳に伝達すると共に、以下を骨子とする「対ASEAN外交5原則」を発表しました。特に、若い世代の交流については、2007年に安倍総理が始めた「JENESYS(21世紀東アジア青少年大交流計画)」を再び実施し、ASEANを含むアジア諸国との間で新たに3万人規模の交流を実施することを発表しました。
(1) 自由、民主主義、基本的人権等の普遍的価値の定着及び拡大に向けて、ASEAN諸国と共に努力していく。
(2) 「力」でなく「法」が支配する、自由で開かれた海洋は「公共財」であり、これをASEAN諸国と共に全力で守る。米国のアジア重視を歓迎する。
(3) 様々な経済連携のネットワークを通じて、モノ、カネ、ヒト、サービスなど貿易及び投資の流れを一層進め、日本経済の再生につなげ、ASEAN諸国と共に繁栄する。
(4) アジアの多様な文化、伝統を共に守り、育てていく。
(5) 未来を担う若い世代の交流を更に活発に行い、相互理解を促進する。

終わりに:「育つ絆、進む日タイ」

第二次世界大戦後70年近くに亘り、日本は一貫して国際社会、とりわけアジアの平和と繁栄に貢献すべく努力をしてきました。これは過去の歴史に対する反省を踏まえた日本の基本的な姿勢であり、今後とも変わりません。

最初に触れたバードさんは、日本軍将校コボリとタイ女性アンスマリンの悲恋を描いた有名な小説「クーカム」を1990年にチャンネル7がドラマ化した際に、主役のコボリ役を演じて最高視聴率40%を記録し、1995年には映画も大ヒットしたと伺いました。そして現在は、チャンネル3系列で、今タイで最も人気のある若手人気スター、ナデート・クキミヤさんを主役に、新たな「クーカム」の映画の制作が進められており、今年4月のソンクラーンに合わせて一般公開される予定と聞いています。

また、テレビドラマでは、タイPBSが第二次世界大戦中の泰緬鉄道建設を題材にした実話に基づくドラマ「ブンポーン」を現在制作中であり、4月から放送される予定と伺っています。

先の戦争は、我々日本人として忘れてはいけない歴史の事実であり、決して美化できるものではありませんが、同時に「負の歴史」を平和への教訓とする未来志向のものであるべきとも考えます。先の戦争を題材としたこのような映画やドラマを観たタイや日本の若者が、これからの地域や国際社会の平和と繁栄を担う世代として育っていくことを切に願っています。

日タイ関係も、これまで培ってきた絆を育てながら、新しい段階へ進んで行くものと確信しています。私自身も、日タイ間の「絆」、友好関係の更なる深化・拡大に貢献していく所存です。皆様の変わらぬお力添えをお願いします。

最後に重要なニュースをひとつ。2月1日に本年の国際漫画賞が発表され、タイの漫画家の作品が、最優秀賞(金賞)、優秀賞(銀賞)及び入賞(銅賞)の3つの賞を獲得したのです。タイはMANGA(漫画)の世界では、完全に最先進国となったようですね。

本年が皆様そして日タイ両国にとって良き年となることを祈念しています。


敬具


タイ王国駐箚 日本国特命全権大使
佐藤 重和

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